『華國ノ史』
 失意を隠せぬままトリートは王ブレイブリーの前に膝まづいた。


 そして最も伝えたく無い事を伝えると、父を見上げるのだった。


「そうか…リンスは死んだか…

 信じられんな、あやつは神々に愛されていると思ったが」


 ブレイブリーは悟ったかの様に嗚咽を漏らし泣き始めた。


「私は…私が直ぐに駆け付ければこの様な事態にはなりませんでした。

 兄も、都も。

 しかし、どちらかを見捨てる事に迷いが生じました。

 お許し下さい」


「許す?

 何を許すというのだ?

 私の目の前には兄と國を天秤に掛け、

 迷い、落胆した心優しき者しか見えぬ」


 ブレイブリーは落ち込むトリートに近づき肩に手を掛けた。


「信じぬだろうが、話を聞けトリートよ。

 一人の戦士がいた。

 まだ子供であったが、希に見る戦士だった。

 
 彼は幼くも魔法都市を守る為に戦い、滅ぼした敵に一矢報いた。

 
 少数であるにも関わらず、何倍もの敵を足止めし、遂に私を救った。


 更に撤退する敵を追い詰めるまでの戦果を残したのだ。


 普通ならば貴族になっても良い程の功績を残したが、

 彼は第二の故郷も、都も、仲間も、師も守れなかったと塞ぎ込んでおる。

 意味が分かるか?

 お前ならばどう思う?」


「…」


「私ならば良くやったと誉めてやるだろう。

 負い目を感じる必要など微塵もないとな…

 しかしそれでは彼を救えなかった。

 
 お前も良くやった。

 
 似た者同士のお前なら彼を救えるやもしれん。

 お互いに生き残ってしまった責務を全うしようではないか」

 
 ブレイブリーは真っ直ぐにトリートを見つめた。

 そこには先程とはうって変わり、山脈勢力懐柔に乗り出した時の男が見えた。


「失ったものへの責任と、それ以上の報酬を得てみせます」

 
 トリートは直ぐ様セブンの元へと走った。
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