『華國ノ史』
 鎖を解かれたピエロにファーストが笑った。


「名演技だったな!うまくいったぞ。

 それで?どうやってこの忌々しい刺青を消す?」


「消すことは出来ないさ、俺はマジシャンじゃないんだぞ」

 
 少し焦ったファーストを安心させる様にピエロが答えた。


「材料を集めよう。消せはしないが書き足せる。

 その苦痛と死の呪いにちょいと描き足して、

 苦痛を怒りに、死を興奮に書き換える」


「描き足す、それだけか?」


「それだけって、結構複雑な術式を組んだんだぞ。全く。

 
 これを発見する事の出来る人間がこの世界に一体どれだけしかいないと思っているんだ。

 
 俺は刺青による魔術式のパイオニアなんだからな!」


「すまん、俺達は世界を知らんからな」


「これからは違うさ、まず初めに知るのはお前だろ?」

「ああ、頼む」

「よし、仲間にも伝えろ。

 同時に脱出計画も伝達する」

 
 ピエロが来てから数日後。

 ファーストは居住区の門まで来ると大声で喚き出した。

 
 あまりの騒ぎぶりに魔法使い達は警告をし、

 構えるがファーストは怯まず罵声を浴びせた。

 
 魔法使い達はまたかとばかりに呪文を唱えた。

 
 こればかりは逆人の魔力遮断魔法も適用されず、

 ファーストは苦しみのあまりに転げ回り、謝罪の言葉を叫んだ。


「根性の無い野郎だ。

 前の奴は仲間が苦しみ出してから泣きをいれたんだがな」

 
 魔法使いは這いずりながら逃げるファーストを笑いながら配置へと戻って行き、 

 テントに戻ったファーストをピエロは心配そうに抱え起こした。


「失敗か?」

「ああ、あいつらはとんでもない失敗を起こした用だな」

 
 ファーストは笑顔で立ち上がり笑うとピエロもつられて笑った。


「それならすごい名演技だ。

 外の仲間は今頃落ち込んでるぞ?」


「悪い事をしたかな、直ぐに計画を実行すると伝えよう。

 
 失敗してもあんたには感謝しか無い、この気持ち分からんだろうな。

 もう魂が自由だ。

 だから、この命はあんたに預ける」


「なら俺の命もあんた達の武勇に掛けよう」

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