『華國ノ史』
 ファーストは初めて燃えていた。

 生まれてから奴隷に育ち、忌み嫌われ、苦痛を味わってきた。


 それが世界なんだと諦めてもいた。

 救いは無く、希望は無かった。

 しかし、ふざけた男がもたらしたこのチャンス。


 何が何でも掴みたかった。


 背中には同胞とそれを救った友を抱え、

 目の前には長く虐げられた仇敵。

 
 理不尽な死は無く、意義のある死に彼は陶酔した。

 
 目は赤く燃え魔人の血が沸いた。

 
 恐れは無く、唯一の不安は1人でも自分の後ろに敵を通す事だった。


 あまりの殺気に煌皇兵はたじろぎ、魔法使いを呼んだ。


「止まれ、死の呪文を聞きたいか?」

 
 そんな脅しでさえファーストの産毛一本一本を奮い立たせた。


 魔法使いは貴重な戦力を仕方なく失うのを辞さなかった。


 それが油に火を注ぎ、首を絞めている友知らず。

 
 ピエロが新しく彫った刺青は、痛みを興奮に、死を怒りに置き換える。


「自由がこんなにも強いとはな」


 みるみる逆人の先駆者に闘志が満ちる。

 
 ファーストは冷や汗を流す魔法使いをいともかんたんに切り伏せた。


「さあ!

 お互い存分に殺し会おうか!

 覚悟はあったんだろう?

 でなければ我々をあの様な仕打ち。

 楽しみだ。

 人の強さが、友の道化は強かったぞ、確固たる覚悟があった。


 そしてそれは俺にもある」

 
 ファーストはその言葉を言うと最早自分でも御しきれぬ激情を発した。

 
 たった1人の反逆者は南大陸の覇者を相手に鬼神の如く立ち回り、

 既に息絶え止まった頃には煌皇兵は恐怖のあまり遠方から彼に矢の雨を降らせた。


 飛び去るピエロは生まれて母が死んだ以来の三度目の涙を流し、

 逆人はファーストの姿を語り継ぐのであった。
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