『華國ノ史』
 煌皇国では国の存亡を掛けた防衛戦に向け準備が進められていた。


 ブレイランドはここまでの展開になると予想をしていなかった為に怒り、その生活は荒れた。


 煌皇五柱の内、三人の将軍を失った煌皇軍は悲しみと不安に駈られ、

 残る二将軍だけが頼りであった。

 
 唯一の救いは打開できそうな作戦自体を組み立てる事の出来るボーワイルドが生き残っていた程度のものである。


 しかし、当の本人はブレイランドからの怒りを受け遠ざけられ、
 
 また旧知と旧友を失った喪失感に襲われていた。

 
 ゼレイドは自軍を率い海上を進む艦隊を迎撃すべく出陣し、

 新に抜擢された若き参謀は陸を進む華國軍第三団を先に叩く為に兵を送り出した。


 ボーワイルドからすればどちらも愚作であったが、

 発言をする程の力はこの時無かった。

 
 王都まで行き陥落を逃し退却した愚将、

 フェネックを使い捨てた冷酷漢、

 キュバインを見捨てた腰抜け。


 自責と皇帝からの侮辱でボーワイルドは自宅にも戻らず、

 街の酒場で酒に溺れていた。

 
 だが、そこには連日噂を聞き付けた者が募った。

 
 多くは彼の元で戦った者、そして良識ある民衆達であった。

 
 作戦の中枢を担う者の多くも彼に意見を求めた。

 
 皆は知っていたのだ。

 
 ボーワイルドの考えだけならば勝てていたという事も、

 皇帝が自分の責任を押し付けているという愚かさを。

 
 そして彼が奮起の名将であるという事実を知っていた。

 
 彼の元には多くの誇り高き煌皇の民が集まり、待ち続けた。

 
 まだ見捨てられぬ者達がいる。

 
 それに答えるべく、彼はどんな悪名を被ろうが最後まで戦いを続ける覚悟を決めた。

 
 例えそれが君主の意に反そうがこの者達の為に、

 自分の為に戦おうと。

 華國を最も苦しめた男が再び誇りを取り戻すべく立ち上がったのだ。
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