『華國ノ史』
 煌皇国随一の戦上手であるボーワイルドは華國軍の意図を読んでいた。


 自分でも同じ手を打つであろうとも思ってもいた。


 彼は威勢を取り戻すと即座に行動へと移り、

 自分の息の掛かった者を集め秘密裏に事を進めた。

 
 先ずは帝都の南に位置する港街の防衛強化である。

 
 主戦力がここに上陸するのをむざむざ見捨てては置けなかった。

 
 ここである程度の抵抗を見せ、上陸する前に相当数を叩きたかった。

 
 陸を進む華國軍に対しての煌皇軍に関しては作戦変更を行った。

 
 足止めに注力させる事により、先に合流した艦隊を潰し陸軍を孤立無援にする。


 一団だけでは帝都は落ちないと考えたからである。

 
 これらはあくまでボーワイルドの意見としてでは無く、

 作戦を担う武官から皇帝に進言された。

 
 そしてこれは大まかな方針として採用される。

 
 裏にボーワイルドがいる事を皇帝は密偵を通じ知ってはいたが、

 そこは沈黙を通した。

 
 ボーワイルドから直接意見を聞く事は体裁を保てないからである。

 
 細かい作戦指示は全て書簡にし、早馬で各方面へと運ばれた。

 
 ボーワイルドがこの時書いた文面は正式な物だけで千五百枚を越えた。

 
 作戦要点と効果、作業法が書かれたこの書簡は後に集められ、

 兵法書とされる程の物となった。

 
 兵士達や民衆はボーワイルドの印章が付いた書簡を常に待ち続け、

 到着すると即座にそれを行動に移した。

 
 その凄まじい作業速度には皇帝も黙殺する他なかった。

 
 ボーワイルドは食事もろくに取らず、

 報告を受けては直ぐにペンを走らせ、頭の中で何度も考察した。

 
 この書簡での効果は大きく、港街と帝都、それに陸軍を阻む防衛隊の全てに同時に正確に伝達を行う事が出来た。


 人々は改めてボーワイルドが傑物であるという事を再認し、

 煌皇国は奮起させられるのであった。

 
< 268 / 285 >

この作品をシェア

pagetop