『華國ノ史』
 煌皇国の定例軍事討論会では、若い将校達が如何にして侵略戦線を展開するかを論じていた。


 この討論会は若い将校達の新しい意見を作戦に取り入れる為に開かれる物であった。


 この大々的な侵攻の指揮を取りたい若者達は熱弁を奮い名誉を賜ろうと必死になっている。

 
 しかし既出の凡庸な物ばかりであり、

 ただの戦力差頼みによる出たとこ勝負の作戦ばかりであった。

 
 最後まで黙っていた老将ボーワイルドは見抜いていた。

 
 自信家で詭弁家の彼等は本当の戦争を知らない。

 
 名家生まれの彼等は名誉を求めるが、自分の死を受け入れる覚悟が無いという事も。

 
 老将で知識人であるボーワイルドが一向に口を開く気配が無いので、

 若き将校達は自分達の話を真剣に聞いているのだと勘違いをおこしていた。


若き将校
「ボーワイルド将軍、

 第二南北戦争を戦い抜いた民間出身である貴方の意見を聞かせて頂きたい」

 他の将軍達はボーワイルドに民間出身と言い、

 意見を聞いた生意気な若き将校を睨んだ。

 
 他の将軍達もまた知っていたのである。

 彼等は役に立たないと。

 
 一人の鼻が潰れ、髭を蓄えたスキンヘッドの将軍が唾を吐き罵った。


鼻の潰れた将軍
「貴様ごときがボーワイルド殿に意見を聞くとはどういう了見だ!

 口を慎め青二才の小僧めが!

 叩き殺すぞっ!

 お前等の作戦が駄作ばかりで口を出す気にもならんだけだ!」


 猛将と呼ばれるキュバイン将軍のあまりの迫力に若き将校の顔はひきつっていた。


 それをボーワイルドが片手で制止し一言だけ口にして席を立った。



ボーワイルド
「私なら勝てる」



 静まりかえる討論会を出たボーワイルドをキュバイン将軍が追った。

キュバイン
「ボーワイルド殿。

 私を使って下さい」

ボーワイルド
「勿論そのつもりだ。

 頼むぞキュバイン」

キュバイン
「お任せを」

 キュバインはボーワイルドに敬礼を行うと、

 武人らしく歴史に残るであろう大戦に心踊らせていた。
 
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