『華國ノ史』
 それより数ヶ月後。

 これより先、長く続く戦いの火蓋が必然的に落とされた。

 華國北東部魔法都市、眠りドラゴン城に急報が届く。


「北海より煌皇軍の大艦隊出現。

 煌皇軍、

 停戦条約を一方的に破棄。

 宣戦を布告」

 
 この報告は魔法都市を震撼させた。

 
 大陸中央山脈での小競り合いが日に日に激化し、

 緊張状態であった為、華國軍は敵勢力の警戒はしていた。

 
 煌皇軍が軍艦のみならず民間船をも南部に集めているとの情報を掴んでいた華國軍はこれに抵抗する為、

 大陸東側に艦隊を集結させる。

 
 東側には島国が2つ有り、

 煌皇軍が海上から侵略をするには通常このルートしか考えられなかったからであった。

 
 その理由として西方の海岸には要塞が多く建ち、

 切り立った崖も多く、中央の王都までの間にも多くの防衛拠点があったからだ。

 
 さらに煌皇国南部の海と華國北部の海は極寒の海域であり、

 漂流者が時折流れ着く事はあるが、それは凍りついてという話である。

 
 しかもこの艦隊が現れたのは寒さが厳しい「凍る魚の月」であった。

 
 ボーワイルドは賭けに出た、と周りの人間は考えたであろう。

 
 しかし確固たる信念があった彼には海峡越えが可能であると信じて疑わなかった。

 
 補給もできず、生物の生存を許さぬ極寒。

 
 海には氷が張り、氷山が付き出した海を渡るとは誰もが予想しなかったのである。

 
 待ちぼうけを食らった華國艦隊に緊急連絡船が報告を告げる。

 
 「中央山脈東側関所に煌皇軍集結中」

 
 大艦隊は軍を海におびきだす罠と考えた華國艦隊は急ぎ陸地に矛先を返した。

 
 しかし、それも罠であった事を彼等は後で知る事になる。

 
 多くの旗を立て、空の野営テントを無数に建てた煌皇国将軍キュバインは、

 国境に慌てて集結する華國軍を見てしてやったりと笑った。


 打ち付ける海水の水が氷り、白く化粧をした煌皇軍艦隊が華國北部の海岸に到着した頃には、

 艦隊の五分の一破棄失われていた。

 
 しかし大した防衛施設の無い北方海岸にさえ入れば、

 その被害は他の二方向を攻めるよりも軽い物であるだろう。

 
 ボーワイルドは勝利を確信していた。

 
 華國の主力は大陸南東に集中し、北部をがら空きにする事が出来たからだ。


ボーワイルド
「我等は偉業を成し遂げた!

  いざ世紀の奇襲を敢行せん!」

 
 ボーワイルドの狙いは眠りドラゴン城であった。

 元より華國の魔法使いより煌皇軍の魔法使いは魔力、技術で劣っている。

 
 長い目で見ると魔法使いの力の差は、
 
 ここを叩く事で逆転出来ると考えたのだ。

 
 いくら魔法都市といえど、

 主戦力になる戦闘に特化した魔法使いは殆ど前線に出払っていることを彼は知っていた。

 街を破壊し、候補生を殺し、教師を殺し、知識を奪うべく、

 ボーワイルド率いる煌皇軍は進撃を開始する。

 

 



 
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