場所
秋が過ぎ、冬が来る。
やがて春が訪れ夏になる。そうしてまた、秋が来る。
何度も、何度も。
私の疑問も、季節が巡るように、ぐるぐる回る。
何度目かの秋のある日、お祖母ちゃんは倒れてこの世を去った。
ひとりで座る縁側は、雲もないような晴れた日だというのに何故か寒かった。ぴたりと寄り添う体から伝わる、お祖母ちゃんの温もりはもうどこを探しても見つからない。
「おばあちゃんがいないと寂しいわね」
いつの間にか、お母さんが隣に座っていた。
笑うと目尻に寄る皺が、お祖母ちゃんにそっくり。
うん、と私が返事をすると、お母さんは嬉しそうな、でも寂しそうな笑顔で頷いた。
「そっか。うん、寂しいよね。わたしも寂しいわ……」
家の中に漂う気配は静かだ。
台所から聞こえる水を流す音も、まな板を叩く包丁の音も、いまはしない。
お祖母ちゃんがすするお茶のかわりに、お母さんが鼻をすするのが聞こえる。
「おばあちゃんのかわりに、わたしの話し相手をしてもらおうかな」
うん、と私はまた答えた。
魔法はやっぱり使えない。記憶だって戻らない。
でも、今はそれでもいいかな、と思う。
もしかしたら、私はとても偉い人の血が流れていて、誰からも頼られ頭を下げられるくらいの存在かもしれない。家来なんかもたくさんいて、私が命じたらなんでもやってのけちゃうんだ。でも、今は魔法や家来よりも、お母さんの傍にいたい。
記憶を取り戻しちゃったら、私は本来いるべき場所に戻らなくちゃいけないでしょう?
だから、いらない。
贅沢を言えば、秋刀魚と白米があれば完璧だ。
「今日のお夕飯は秋刀魚にしようか」
お母さんは立ち上がり、台所へと向かう。
私もその後を追い、自分の思いが通じたような気がして嬉しくて思わず声をあげた。
ナーオ、と鳴く私の頭を撫でるお母さんの手は、とても温かかった。