伝わらない、伝えられない


充てもなく走っていると思えば、いつの間にか靴箱の前。


無意識にいつも通る順序を辿っていたようだ。


帰ろう…


もう後のことなんてどうでも良くて、靴を履き替えて門へと向かおうとした時。あたしの前に現れたのは…



「拓真、先輩…」


「おっ、ちとせじゃん。お前も今帰り…」



あたしに気付いた拓真先輩が喋りながら近付いてくる。


だけど言葉を止めて急に黙りこんでしまった。



「…何か、あったのか?」


「え?」



見上げると優しそうな表情で先輩があたしを見ていた。


その瞳は、話さなくてもすでに見透かされているようで…



「……」



でも今は、話せる気分になれない。


辛くて切なくて、何をどうしたいのかあたしにさえ分からない。



「…よし!帰りましょうか?」



何も言わないあたしに文句を言うこともなく、先輩は優しくあたしの手を引いていく。


その労りが有り難くて、ホッとする。


そして促されるままにあたしも歩を進めようとした、その時…



「ちとせ!」



向こう側の廊下から走り寄ってきた人物、それは…


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