伝わらない、伝えられない


「明…」



あたしと先輩の傍にきた明を見てポツリと呟く。



「葵と悠斗見つかった? 職員室とか部室にはいなかったよ」



明の言葉にぴくりと反応する。


二人の名前を聞くだけで…今は心臓がうるさい。



「えっと…悠斗と、葵は…」



また声が震えてくる。その続きを言いたくない、何も思い出したくない!


でもあたしの頭の中では、さっきの映像が繰り返される。



「高峰くん…だよね?ちょっとこいつ気分が悪いみたいでさ、今から送っていく所なんだ」



話せないあたしの代わりに先輩が代弁してくれる。


一応間違ってはいないので黙ったままで突っ立っていた。



「…そうなんですか?大丈夫?ちとせ」


「ん、大丈夫…」



心配そうな明の顔。


嘘って訳じゃないんだけど、そんなに不安そうな表情をさせてしまうと申し訳なく感じる。



「じゃあ帰るわ。そのお友達二人にも伝えておいて?」


「あっ、了解っす」



拓真先輩は明にそう言うと、またあたしの手をとって歩き出した。


あたしは呆然とする心と体をそのままに、ただただ連れられていった。


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