伝わらない、伝えられない
あたしの願いもむなしく、先輩は横をすり抜けていく。
「あぁ、そうだ…」
「…なっ!」
「まぁそれだけ、じゃあな」
そして帰り際に悠斗に何かを話すと、その場を立ち去っていった。
どんな事を言われたのか。
ないしょ話をするように悠斗の耳元に近付いていたから、あたしの耳に届くことはなかった。
悠斗の顔は何だか赤みを帯びていて、でもそれを聞くことも出来なくて…
二人に流れる気まずい空気。
「…家に、上がる?」
「お、おぅ…」
廊下にずっと立たせる訳にもいかず、取りあえず家の中に入ってもらった。
別に悠斗があたしの家に来るのは初めてじゃない。
でもいつもは明も葵も一緒にいるから、二人っきりなんてなかったし。
部屋に入ると余計に気まずさが際立つ。
そもそも、なんで悠斗がここに来たの?
告白の報告でもしに来たとか?
いや、でも一人で来たりしないか…
「飲み物、入れるね…お茶でいい?それともコーヒー?」
悠斗と目を合わせることなくキッチンへと歩いていく。
悠斗の話を聞きたくなくて…