伝わらない、伝えられない
「葵を好きだと思っていた理由は、あいつの前だと気兼ねしなくて自然でいられる。
そう思ったからだったんだ」
「うん、そうだね…」
だからこそあたしは、悠斗を諦めようとした訳だし。
「でもよ、葵に対してドキドキする…なんて事は全然なくてさ。
いつもそう感じさせられるのは…ちとせだった」
「…へ?あたし?」
必死に話す姿に胸を打たれていると、突然出たあたしの名前。
予想外の事に間の抜けた声を出してしまった。
悠斗があたしにドキドキしてた…
あたしを、意識してくれてた?
考えが少しまとまると、今度は顔が熱くなってきた。
うぅ…、かなり嬉しいんですけど。
「俺が好きな相手は葵じゃなくちとせだ。それで…その、返事を聞かせてくれるか?」
夢心地とはこういう事をいうんだろうか。
胸の中では決まりきっている答え。
でも、本人に隠してきた分だけ言いにくい感じがして…また緊張が甦ってきた。
「あ、あたしも…」
悠斗がこっちを真っ直ぐ見つめている。
その表情は、いつになく不安そうで…
「好き、です…悠斗のことが」
安心してもらいたい一心であたしはそう伝えた。