伝わらない、伝えられない
無自覚は罪side悠斗
思えば、ちとせは辛いことがたくさんあったはずなんだ。
でも嫌な顔ひとつしなかったし、弱音も今まで吐かなかった。
この小さな手で…小さな体で、どれだけの重荷を背負ってきたのか。
きっと…想像も出来ない。
けど、常に微笑むちとせに俺達は聞くことが出来なかったんだ。
笑っていてくれるならそれがいい…そうやって、避けていたんだ。
でも、これからは違う。
ちとせが泣いていようが辛くてしょうがない顔をしていようが、俺が近くで寄りそうんだ。
そう決めた。決めたんだが…
こいつは、ちとせは…自分のことは棚に上げるのに、他人に対しては人一倍お節介で、自分のことじゃないのに怒ったり悲しんだりする…そんな奴だ。
そのちとせが『俺と』付き合うって、
イマイチ不安だ。特に男子から袋叩きに遭わなければいいが…
手を握りながらぼんやりと考え込んでいると、突然ちとせが頭を下げてきた。
「…えと、これからも、よろしくお願いします」
そう言い放ち上げられた顔は、少し照れた表情で俯き気味に笑っていた。
普段見せる笑顔にある無邪気さはなく、それは女を意識させられるもので…