伝わらない、伝えられない


「やっと帰れる…、あっ」


「ん?」



今日はバイトもないから、授業が終わって家に帰るつもりでいた。


けど教室を出る前に、担任の弥生先生にプリント集めをお願いされてしまって…


あの潤んだ目で頼まれると…嫌、なんて言えず。


全員分を集めて職員室へ持っていったのだった。


それで次こそは帰ろうと靴箱へ来たのだけれど。


まさか幸か不幸か、偶然にも悠斗と会うだなんて…



「プリント集めご苦労さん。今帰るとこ?」


「うん。悠斗の方は、今から部活?」


「いや、今日は人数足りてるんだってよ」



悠斗は『運動補助部』というちょっと変わった部活に入っている。


活動内容は主に、運動部の練習相手や休んでいる選手の助っ人をしているらしい。


確かどんな種目にも対応しなきゃいけないみたいで、運動神経が良くないと部員にはなれないって言っていたような…


つまりあたしじゃ入れないってことか。


入ろうと思ったことすらないけど。



「そうだ。この後って…」


「ちとせー!悠斗ー!」



靴を履き替え玄関へ向かう途中。


悠斗が何か言おうとしていたけれど、それは私達を呼ぶ声によって遮られてしまった。


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