伝わらない、伝えられない
二人して声がする方へと振り向く。
そこには確か部活中であるはずの葵がいて。
葵を見つけた途端に、悠斗の目がすごく優しいものへと変わるのが分かった。
って、何食い入るように見てたんだあたしは!
ブンブンと頭を振って今度は前に目を向けた。
葵は真っ直ぐ伸びた廊下を小走りで近づいてくる。
ふわふわのウェーブがかった髪が走る度に揺れ、そこに女らしさを感じられる。
「部活はどうしたんだ?」
耳に入り込んできたのは、あたしと話していたのとは全然違う優しい声。
それはもう葵に対する想いが伝わってきちゃう、そんな声。
「今日は仕上げた作品の提出だけだったんだよね! 連日だったから疲れたよ~」
葵は美術部に入っていて、一年生なのに副部長をしている。
葵の描く絵は素人のあたしが見ても素敵な物で、色んなコンクールで賞を貰うほどの実力者。
最近は次に出す絵を描くのに、毎日最終下校時間まで残っていたようで…
「んー、どっかで羽休めしたいっす!」
「じゃあ、少し遊んで帰るか?」
「ホントに? やったー!」
手を上げて喜ぶ葵を見て、悠斗はふわりと優しい笑顔を浮かべた。