伝わらない、伝えられない
「カラオケ行こう? 久しぶりにちとせの歌聴きたいし!」
葵はそう言うと、あたしの腕に絡み付く。
確かに最近二人と遊べてなかったし、遊びたいって気持ちはある。
でも、只でさえダメージ受けてるこの状況で、これ以上傍で見てるのは、さすがに…
「えっと…あの、ごめん。あたし、拓真先輩と会う約束してるから」
本当は約束なんてしていない。
咄嗟に思い付いた嘘。
だけどそんな事を言ってしまう位、あたしにとって二人を見ているのは辛かった。
その嘘に二人はそれぞれの反応を見せる。
「へ? お前さっき帰るって言ってなかったか?」
「それは、着替える為に一旦帰るという意味で…」
「えー! ちとせ一緒に来ないの?」
少し険しい顔付きで聞いてくる悠斗に、残念そうにしている葵。
正直に『行きたくない』なんて言える訳がないもん。
だからこの嘘をつき通すしかない。
そう決心した時に。
「よぅ、ちとせ。まだ学校に居たんだ?」
もうそれは、奇跡なんじゃないかと思える程…
最悪なタイミングでの本人登場だった。