伝わらない、伝えられない
「た、拓真先輩!今お帰り、ですか…?」
動揺を隠しきれずに言葉を紡ぐ。
だって普通は話した張本人がそこに現れるなんて、誰も思わない…よね?
なぜ今なのか、もう少し早く通りすぎてくれれば良かったのに!
「あのー、笹原先輩! 今日ってちとせと約束してるんですよね?別の日に変更出来たりしませんか?」
葵は素早く先輩へ近付くと、よりにもよってあたしの一番話して欲しくないことを口にした。
その言葉を聞いた拓真先輩は数回瞬きをすると、葵とあたしを交互に見る。
あぁ、バレてしまう…
そう思い、あたしは俯き唇を噛み締めた。
「…うん。今日はコイツ貸せないや、ゴメンね?」
えっ、…なんで?
拓真先輩から出た台詞は、あたしの想像していたモノとはあまりにも違っていて…
驚いた顔のまま先輩を見ると、笑顔であたしの手を掴んで歩いていく。
「さっ、行くぞー」
「うっ、あの?…ご、ごめんね! また明日、学校で!」
急な展開に全く着いていけず…
とにかく少し離れてしまった葵と悠斗にそう言うと、先輩に連れられるままに学校を後にした。