伝わらない、伝えられない
笹原という人物side悠斗
それはあっという間の出来事で…
葵と二人、ちとせが去っていった方向を呆然と見ていた。
なんなんだよ、あいつ。
急に現れたと思ったら、有無を言わさずちとせを連れていきやがって。
出会った当初から、笹原拓真(ササハラ タクマ)というのはそういう奴だった。
昔からの知り合いかなんだか知らないが、再会したばっかの時からちとせに馴れ馴れしい態度で。
しかもさっき、俺と葵の前を通りすぎた時。
垣間見えたその表情は、やけに楽しそうに見えて…
何故かその顔を見てから、イラつきが収まってくれない。
『今日はコイツ貸せないや』
笹原の言葉が頭に浮んで。
貸せないって何?
大体ちとせは、先輩の所有物じゃねぇ。
心がモヤモヤする。
それが誰に対してなのか、それ以前に何に対してかも分からない。