伝わらない、伝えられない
「たぶん…噂を耳にしてると思うよ、弥生は」
「え?」
弥生さんは知ってるってこと?
じゃあなんで先輩に何も話さないの?
「不思議に思ってる?んー、そうだなぁ。
きっと俺とちとせを信用してくれてるから、かな?」
「信用…」
強い風が先輩の髪をなびかせる。
垣間見える大人びた表情…
たった一つしか年齢的には変わらないはずのに、かなりの差を感じてしまう。
それと同時に拓真先輩自身も弥生さんを信じてるんだなって、そう強く思った。
「なんか、羨ましい」
信じるって、きっと難しい。
心から想いあう相手だからこそ、出来てしまうんだろうな。
「ちとせは、何か気になる理由でもあるの?」
拓真先輩の言葉にびくりと反応する。
確かに弥生さんに疑われたくないって気持ちはある。それは間違いないけど…
自分でも気付いてる。
勘違いされたくない本当の理由を…
「えっと…あの、そのっ」
封じようとしている想い。
それを自ら話してしまいたくなくて…
言葉が詰まる。話す相手が例え拓真先輩でも。