伝わらない、伝えられない
自分の気持ちside悠斗
「何処に行ったんだろう。もう授業はじまるっていうのに」
「うーん、そうだね。ちとせに限って授業を欠席するとは思えないけど」
教室から出ていったちとせを心配する葵と明。
二人がメールや電話をしているようだが、どうやら返ってこないらしい。
「予鈴なったら戻ってくるんじゃねぇの?」
「もう!少しは気にならない訳?」
淡々と話す俺の態度が気に食わないのか葵がにじり寄ってくる。
そりゃ気にならないと言えば嘘になる。
でも笹原先輩は結構律儀な人だ。
だからちとせをサボらせる様なことはさせないと思うし、多分。
「ねぇねぇ。 ちとせって本当に笹原先輩とは付き合ってないのかな? 私的にはいい雰囲気に見えるんだけどなぁ…」
小首を傾げながら俺達二人に聞いてくる葵。
三人の間に少しの沈黙が流れた。
実はこの噂、ちとせが入学した当初から今までの間ずーっと言われてきている話だ。
至るところを渡り歩いたこの話題は、今や我が校で知らない奴がいない程のものと化していた。