伝わらない、伝えられない
「さて、これは……どういう事なのかな?」
「な、何の話をしているのでしょう?」
今にも逃げ出しそうなちとせを後ろの壁へと追いつめる。
全くこいつは、危機感がなさすぎて嫌になる。
こんな状態じゃいつ変な虫が付いたとしてもおかしくない。
いや、今まで被害に遇わなかったのが奇跡みたいなもんだ。
「お前さ…もうちょっと自分のこと、分かった方がいいぞ?」
「自分の…こと?」
さっぱり分からないと言っているかのようにちとせは首をひねる。
「たくさんの野郎から好意を持たれてる自覚とか」
「そ、そんな、好意なんて…」
「自分が女でひ弱だって事とか…」
俺の話に対し、困ったように眉が下がった。
言葉じゃ理解してくんないか。
俺は一つため息をつくと行動に移す。
素早くちとせに近付くと、こいつの両手首を自分の片手で掴んだ。
「ゆ、うと…?」
「振りほどいてみろよ」
少しだけ掴んでいる手に力を加える。
「なんでそんな事を…」
「いいから。やってみて?」
戸惑いながらも、ちとせは抜け出そうと手を動かし出した。
しかし俺の手が退けられる様子はなく…
「少しは分かった?男に押さえつけられたらどうなるか」
「うっ…はい。ちょっと気を抜いていました」