伝わらない、伝えられない
「少しは分かった? 男に押さえつけられたらどうなるか」
「うっ…はい。ちょっと気を抜いていました」
安易に考えすぎてたのかもしれない。
この生活に慣れてきて夜道とか、一人とか…気にしてなかったし。
正直悠斗に手を掴まれるまで、そんなの忘れてたかも。
「なんか悠斗ってさぁ…」
「ん?」
「お父さんみたいだよね?」
「…はぁ!?」
怖い思いをさせられた事へのちょっとした仕返しのつもりだった。
思ったよりも反応が大きい。
でも…自分の言葉があまりにも的を得ていて、辛くなる。
文字通りの自爆だ。
ふと悠斗を見ると、あからさまに落ち込んでいるのが分かる。
「え、あっ、もしかして傷付いた? ただの冗談だから!ね?ゴメンってば!」
「別に…」
ちゃんと『葵に対しては違う』ってフォローを入れたはずなのに、悠斗のテンションは低いままで…
少しからかい過ぎちゃったかな?
何も言わずに肩を並べて歩く。
長年一緒にいるからか、真に受けたんじゃないっていうのは分かってた。
だけど悠斗は何でか神妙な面持ちで…
不思議に思いながらも、あたしはその横顔をただ見ているしかなかった。