伝わらない、伝えられない
楽しそうに会話をする二人。
だいぶ距離のある所にいるあたしには、その話は聞こえてこない。
だけど後ろからでも感じられる、悠斗の愛しそうな表情。
あたしには向けられる事のない、表情…
それはこれから先、あたしがいくら求めたって手が届くことはない。
…あー、もうやめた!いい加減諦めてしまおう…
拭い去るんだ。
想いが長くなっていく程に自分が傷付くのは明らかじゃんか。
悠斗は葵に夢中なんだから…
あたしだって…辛いのは嫌、なんだよ。
忘れてしまえば楽になるのかな?
ううん、そうじゃなくても忘れるんだ。
「サヨナラ…」
もう見えなくなった悠斗にそう告げる。
知らぬ間に流れた一筋の涙。
この涙とともにあたしの気持ちも流れてしまえばいい。
わざと気分を変えるように両手を上げてぐっと背を伸ばす。
ふと見上げた夜空に大きな満月が出ていた。
その光が暖かくあたしを包み込む。
それはまるで、頑張れと言ってくれている気がして…
「よし。まずは買い物だ!」
自分に気合いを入れると、あたしも前へと一歩踏み出した。