伝わらない、伝えられない
「好きだよ!悠斗もちとせのこと好きでしょ?」
さも当然、というように断言する葵。
しかも逆に聞き返してくるとは…
思ってもみなかった俺は一瞬驚く。
でも聞かれた事でその意味が分かり、つい可笑しくなった。
決まってるんだよ、そんな事…
「あぁ、好きだよ」
葵も同じ気持ちだったんだろう。
当たり前のことを聞くなって。
同時に二人して笑いあった。
俺達の大切な友達だ。好きじゃない訳がない。
「私ね。ちとせには幸せになって欲しいの…
だからあの子を傷付ける人がいたら、許さない」
「葵…?」
いつになく真剣な葵の表情。
怖いくらいに気持ちがひしひしと伝わってくる。
「あっ、あそこ新しく出来たドーナツ屋だよ。君に決めたー!」
「え、おい。ちょっと待てって!」
さっきのシリアスな雰囲気はどこへやら。
お目当ての店を見つけると、目を輝かせながら一目散に駆けていった。急いでその後を追う。
その時の俺はまだ知らない。
葵の言葉が、誰に向けられて言った物なのかを…