伝わらない、伝えられない
「でもそいつ、そんな事も気付きもしねぇで他の奴のことばっか考えてんだよ。
もうマジで苛ついてるね」
そう言って顔を上げた明は俺を睨み付ける。
他の奴に対する怒りでそんな顔になっているのか。
初めはそんな風にも考えたが、変わらず俺を見据えている明…
それだけでそうじゃないんだと分かった。
そう、明は俺を睨んでいるんだ。
明が苛ついてんのは、ちとせの好きな奴…だろ?
疑問を浮かべながらも俺は気付きはじめていた。
ちとせが想ってる相手の正体が…
「鈍感くんにもそろそろ分かってきた?ちとせの好きな奴が…」
刺々しい明の言葉。
中学の入学時からずっとこいつと一緒だったけど…
こんなに怒りを露にした明を初めて見た。
明がここまで変わってしまう位に、ちとせを好きでいたんだ。
そしてそのちとせを、俺は傷付けてしまった。
返す言葉が思い付かない。
ただ座ったままの状態で目の前のカップを見つめていた。
「今日はこれを言いたくて来ただけなんだ。もう帰るから、皆に言っておいて?」
明はそう言い残して去っていった。俺の返事さえも聞かないままに…