伝わらない、伝えられない


結局明が帰った後、俺もとても遊ぶ気分になれなくて帰ることにした。



いくら知らなかったとはいえ、俺はちとせにとんでもない事をしちまったんだ…


俺を想ってくれていた奴に『葵が好きだ』と宣言してしまったのだから。



それを聞いた時、一体どんな気持ちでいたんだろうか?


もし俺が葵自身に好きな相手がいると告げられたとしたら…


考えただけでも耐えられない。


それなのにあいつは笑顔で、しかも頑張れと励ましてくれた。


きっと辛くて苦しかったはずなのに、ちとせは…


前から感じていた違和感はこれだったのか。


俺の気持ちを聞いてからもずっと、俺と葵の姿をそばで見ていたんだよな。


誰にも言わずに、一人で…


何が妹みたいだ、子供っぽいだよ。


そんな気持ちを全然感じ取れなかった俺の方がガキじゃねぇか!


知らないうちにどれだけ傷付けていた?


俺の想いを知ってる奴はちとせだけだったから相談にのってもらったりもした。


その時も嫌な顔なんて全くせずに、寧ろ一生懸命に答えてくれて…


優しいちとせにただ甘えてたんだ、俺は。


それが心底嫌になる。


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