シルバーブレット
「だったらなんで嗅ぎ回った?捨てられたと思ったんなら、そんなこと普通しねぇだろうが。」



至極もっともな疑問だった。


恨んで報復なら分かるが、螢は転移性の病死だ。



「女房に言われちまったんだ。《貴方の中には私ではない誰かがいる。私はその隙間にさえ入れていない。》ってな。」



さすがは、組長の娘なだけはあった。

緒方の中に、自分はいないと見抜いていたようだ。



「政略結婚でもそばにいられて良かったと、死に際に言われたよ。」



渋鷺組の組の娘は、結婚して10年後持病の病で亡くなっている。


持病が悪化する前に、結婚式をさせてあげたいと、2つの組の組長に願われた結果の事でもあった。



「《私がいなくなったら貴方の好きにして。縛られなくていいわ。覚えていてくれるだけで十分よ。》そんな女房の言葉が耳に貼り付いちまってな。」



愛した女と愛せなかった女。

どちらにも願われたのは、己の幸せ。


全く別の2人の女がした諦めにも似た優しい表情を、緒方は忘れることが出来なかった。



「よりを戻そうなどとは考えていなかったが、遠くでいいから見守りたくってな。烏田切に調べさせた。」
< 126 / 146 >

この作品をシェア

pagetop