氷の魔女とチューリップの塔
伝承
昔々、小さな美しい国に
花のようなお姫様が
お生まれになりました。

お姫様は
まだ目も開かない
赤子のうちに
お隣の
大きくて豊かな国の
王子様と
ご婚約なされました。

小さな国のお姫様は
大きな国に
嫁ぐに相応しきように
持って生まれた
美貌だけでなく
清らかさと気品を
身につけるべく
大切に大切に
育てられました。

期待通りに
ご成長なされた姫の
その美しさ
膨らみきって
今しも咲き誇らんという
つぼみの春に…

大きな国の王子様は
もっと大きな国の
醜い女王様と
ご結婚をなされました。

悲しみにうちひしがれる
お姫様の国に
追い打ちをかけ、
その小さな領地すらをも
奪わんと、
大きな国の軍隊が
攻め込んで参りました。

お城の人々は
何を失おうとも
せめて
お姫様の美しさだけは
守ろうと、
お姫様を塔に隠して
光と闇に祈りました。

その美しささえあれば
どこか別の国の王子様が
お姫様を
助けてくださると
信じたのです。

祈りに答えたのは
闇の方でした。

敵が放った炎によって
町は紅蓮に包まれて、
白亜の城は
崩れ去りましたが、
お姫様と塔だけは
黒い力で守られました。

こうして
小さくても美しい国と
大きくて豊かな国と
もっと大きくて醜い国は
一つの国になりました。

それはとても昔の話。

三つの国の
そのどれも
今は廃墟をさらすのみ。

ただ一つ、
お姫様を閉じ込めた
塔だけを残して。
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