氷の魔女とチューリップの塔
大窓の枠に手をかけて、ロゼルが中を覗き込む。

そして息を飲み、動きを止める。

(やっぱロゼルも見とれるんだな)

その眼差しには、スリサズに向けるのとは明らかに異なる熱がこもっていた。

(んー。ちょっと夢中になりすぎじゃない?)

スリサズがそろそろイライラしてきても、ロゼルは姫君から目を離そうとしない。

「ロゼルー!
この階段、そんなに長く維持できないんだけどー?」

それでもロゼルは上の空な返事で、まだお姫様に見入っている。

唇が動いて…

(何か話してるの?)

やがて…

杖から妙な音が鳴り始めた。

「ロゼル! 杖が持たない!」

「…!」

ようやくロゼルも我に返って、慌てて階段を駆け降りる。

「間に合わない早く!」

「…っ」

ロゼルが地面に着くのと同時に階段が砕け散り、スリサズの手の中で杖も弾け飛んで、破片がスリサズの顔をかすめた。

「…大丈夫か?」

「それはこっちの台詞!
それにしても、きれいなお姫様だったわね」

「…彼女をこのままにはしておけない」

風が吹いてチューリップが揺れる。

二人を包む花畑。

スリサズは、黄色いチューリップの花言葉を思い出していた。

“叶わぬ願い”

叶わないのは、誰の願い?
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