その苦くて甘くてしょっぱいけど…
物思いにふけっていた僕に耳に、父の一段と低い声が突き刺さる。

「そして、何の証拠もないが、おそらく慈希は…

あの子は俺の子じゃない」

僕は顔を上げびっくりしたまま父を見たが、父は俯いたままだった。

その表情をうかがい知ることはできなかったが、

そこまで断言する根拠が何かあり、それが父を苦しめていることが…

その様子でわかった。

「俺の子じゃないことに3歳頃気が付いた。その時、本来はほのかに何としてでも

誰の子か聞くべきだったが…

元々妊娠しにくく、ボロボロになりながらも子どもを望む彼女を、

どんな事であっても責めることは俺にはできなかった。

結局あれきりお前に兄弟はできなかったからな…」

「それだけなら、間違いなくほのかの子なのだからと、

慈希の事を許せたかもしれない。でもあいつは、あいつは…

ほのかを…」


父の言葉がそこで言いよどんだ。

これまでも少ない言葉の中には、衝撃的な事実が多かった。

ここからはそれ以上の何かがあるのか?

僕はただ黙ってその場で固まって座っているしかなかった。

父に無理強いして聞いた話ではない。どこまで話すかは父が決めたらいい。

何気ない日常を過ごしていた僕たち家族には

こんなにも重い重い因縁があったのだろうか?

僕は最後まで聞くべきなんだろうか?父を止めるべきなんだろうか?

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