二番目の女。




カチッ、カチッ、と規則正しい時計の音がする午前10時



朝方、仕事に向かう颯太を送り出して二度寝しようと思ったものの、眠る事はできなかった。



――あの、颯太の苦しそうな顔が忘れられない



そして今日も私は1日この部屋に監禁されて暮らすのかなあ、なんて




『…監禁、か』



仮にもまだ付き合ってるのに、そんな考え方をしてしまう自分に笑ってしまった






――ガチャリ


『…え?』



颯太、帰ってきたのかな






"ただいま"の一言もなく、足音が此方に向かってくる




――キイ、と鈍い音をたててこの部屋を開けたのは



「…あら?」



綺麗な、女の人




『…、』



もしかして、颯太の――



「…ごめんなさい」




―――え?



その女の人は目尻を下げて深々と頭を下げた


その顔は少し何処か懐かしさが感じられて



『あの…?』




「あ、私…颯太の母です」



『そう、なんですか』




その懐かしさは、颯太に似ていたからか




颯太のお母さんはゆっくりと私に近づくと


『ッ―…』


私の頬にそっと手を添えた




「痛かったでしょう?颯太が…ごめんなさい」



『!』





お母さんには違うと否定するべきなのだろうか?


ゆっくりと首を横に振る私を見て、また悲しそうに目を伏せた





「横に、座っていいかしら?」



『…はい』



颯太のお母さんは、颯太の何を、何処まで知っているの?



緊張しする私をよそに、颯太のお母さんはゆっくりと私の横に越を下した






「――こうやってね、颯太は女の人を殴るのよ」



『え…』



言葉が出なくて、ゆっくりと横を向いた





「お名前、なんていうの?」



『…胡桃、です』




「そう…胡桃ちゃんは、颯太の事が好き?」





言葉に詰まる私に、正直に答えていいのよ、と優しく笑ってくれた






『…実は、私ずっと好きな人がいたんです。すっごい好きな人がいて、でもその人は好きになっちゃいけない人で…』


「うん」



『颯太は前から私の事知っていたらしくて、絶望を感じていた時に告白されて"変わりでもいい"って言われて、寂しいから付き合ったんです。…でも、颯太の私への本気の気持ちが重すぎたっていうか…何より、その好きだった人が忘れられなくて、颯太を利用するのが嫌になったんです。颯太はすっごい一途だし…私なんかよりもっといい子と付き合って幸せになってほしいって、思って』



――お母さんに、何言ってんだろう






『それで、颯太に別れて欲しいって言ったら…』


部屋に連れて行かれて、殴られて、襲われたんだ



――あの光景を思い出すと


『それで…』




吐き気がする








「もう、いいのよ、胡桃ちゃん」


『…』



正直ホッとした


ここで続けたら実の親が聞いて内容じゃない気がしたから





「颯太は昔はこんな子じゃなかったの」



『…』




「私は、あの子が怖くて逃げたの」



『――ッ』


それは、颯太は捨てられたと思っているのではないか?





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