スレイブプリンセス
兵士が私に近づいた。
きっと私が逃げないか見張っていたんだろう。
「すいません。もう戻りますから…。」
私は屋敷の方へと足を進ませる。
「涙を我慢しなくてもいいんじゃないんですか?”イヴさん”?」
私は振り返って目を見開いた。
「なぜ、その名…を?」
夢の中で響いたイヴという名前。
私しか知らないはずなのに…。
いや…自分でもその名前についてまったくわからないのに…。
…どうして…。
「秘密です。」
兵士の彼は微笑み、唇の前で人差し指をたてた。
「あなたは何者なの…?」
「俺はこの屋敷の兵士だよ。」
ニコッと微笑みながら言う。
私は彼を不審な目で見る。
「あ、でも、安心して。俺は君の味方だから。それにラスフォール様はこの事は知らないから大丈夫だよ。」
本当にこの人は何者なの…?
それになぜ私はイヴと呼ばれるの…。
…わからない…。
…わからない…。
何もかもわからなすぎて、頭が痛くなる…。
「そんなに考えこまないで。さぁ、外は冷えるから中に入ろう、”サン”様。」
彼は私の腰に手を触れて屋敷へ行こうとするが、私はそれを拒み、先に屋敷へ走って入って行った。