危険なキス
 
もともと、ここには別の教師が来る予定だった。

だけどそいつが、急遽、実家の家業を継がないといけないとかで、赴任することが出来ず、緊急で誰か教師となる人を探していたらしい。

そこで、雅人と知り合いである俺に、話が持ち上がってきたのだ。


「あんまり、おおっぴらに手を出すなよ?家庭教師とワケがちげーんだから」
「大丈夫だって。ちゃんと、ここでは仮面かぶってるよ」
「はっ……」


鼻にかかっているメガネをクイッと持ち上げると、そのしぐさを見て、雅人が鼻で笑った。


俺の仮面は完璧。
誠実で優しくて、とても真面目な教師を演じている。

紫乃の家庭教師としても、最初はそうだった。
だけどある日突然、素の俺と対面してしまったから……。


最初、それでもごまかそうと思って、何事もなかったかのように接していたけど、
あまりにもビクビクしている紫乃を見て、ついついもっとからかいたくなってしまった。

だからその日から、俺はあいつの前では仮面をとることに決めたのだ。
 
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