危険なキス
「柊~」
英語の授業の開始前、急にあたしの机に詰め寄った男。
その男は、パンと両手を合わせると、あたしに頭を下げ始めた。
「頼む!英語の宿題、見せてくれ!」
「またー?この前も忘れてなかったっけ」
「う……そ、そうだけど……。今日は絶対当たるんだよっ」
そう言って、必死に懇願してくる。
彼はクラスメートの楠木拓也(クスノキタクヤ)。
あたしが唯一、ちゃんと話をする男子だ。
「な!今日昼飯おごるから!」
「……それならいいよ」
「よっしゃ!」
あたしの言葉に、楠木はパーッと笑顔になり、そうそうと宿題を写し始めた。
あたしはただ、そんな彼を呆れたような顔で見ていた。
いや……
見つめていた。