危険なキス
 
「あたしが一番じゃないって分かってたけど……でもそれでも嬉しかった。
 これからはあたしが、彼女として拓也の傍にいられるって思ったから。
 ……でも…」


そこまで話すと、麻衣子の瞼からついに溜まりきれない大粒の涙が零れ落ちた。


「拓也の心の中心は、いつも紫乃だったよ。
 あたしは名前だけの彼女。余計に辛いだけだったんだっ……」


じりじりと太陽が照りつける中、痛いほど麻衣子の辛さが伝わってくる。


あたしが楠木に感じていたこと…
本当はいつも麻衣子も感じていたんだ……。


「ねえ、紫乃……」


麻衣子は涙をぬぐうと、あたしの顔をじっと見つめた。


「紫乃は……拓也のこと、どう思ってるの?」

「……え…」


そう言われて、あたしは返答に困った。
 
< 220 / 382 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop