危険なキス
 
「ごめん……。
 麻衣子がせっかく背中を押して楠木と両想いにさせてくれたけど……

 あたし…ほかに好きな人がいる……」

「……」


麻衣子は、黙ってあたしの話を聞いていた。
あたしはどこまで話していいのか分からず、一つずつゆっくりと話した。


「楠木に気持ち伝えたときは、まだ自分も楠木のことが一番好きって思ってたの。
 だけど楠木と付き合うようになって……その人から突き放されるようになって……気づいた。

 本当は……ずっと前から、その人のことが好きになってたんだ、って……」


先生から、一生徒として扱われた時の切なさ。

もうかまわない、と言われた時の悲しさ。

今思い出すだけで、胸が痛くなる。


「麻衣子と楠木が付き合い始めて、どうしようもなく辛かった時、
 その人はいつもあたしの気を紛らわしてくれてた。
 やり方は意地悪だけど……だけどその分、何も考えずに済んで……気が付けばその人で胸がいっぱいになってて……

 今ならハッキリとした気持ちで分かる。


 あたしは彼が好き」


麻衣子の目を見てまっすぐ言うと、麻衣子はうっすらと笑って「そっか」と一言言った。
 

そしてトンと立ち上がると、窓辺へと立った。
 
< 275 / 382 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop