危険なキス
「ごめん……。
麻衣子がせっかく背中を押して楠木と両想いにさせてくれたけど……
あたし…ほかに好きな人がいる……」
「……」
麻衣子は、黙ってあたしの話を聞いていた。
あたしはどこまで話していいのか分からず、一つずつゆっくりと話した。
「楠木に気持ち伝えたときは、まだ自分も楠木のことが一番好きって思ってたの。
だけど楠木と付き合うようになって……その人から突き放されるようになって……気づいた。
本当は……ずっと前から、その人のことが好きになってたんだ、って……」
先生から、一生徒として扱われた時の切なさ。
もうかまわない、と言われた時の悲しさ。
今思い出すだけで、胸が痛くなる。
「麻衣子と楠木が付き合い始めて、どうしようもなく辛かった時、
その人はいつもあたしの気を紛らわしてくれてた。
やり方は意地悪だけど……だけどその分、何も考えずに済んで……気が付けばその人で胸がいっぱいになってて……
今ならハッキリとした気持ちで分かる。
あたしは彼が好き」
麻衣子の目を見てまっすぐ言うと、麻衣子はうっすらと笑って「そっか」と一言言った。
そしてトンと立ち上がると、窓辺へと立った。