危険なキス
「それじゃあ、しょうがないんじゃない?」
「でも……せっかく応援してくれたのに……」
「人の気持ちなんて、いつどのタイミングで変わるか分からないんだし。
あたしが指図できるものじゃないよ」
麻衣子は振り向き、ニコッと笑う。
そして言葉を続けた。
「さっきね、実は拓也のこと、追いかけてたんだ」
「え?」
「だから、ここに来るの、ちょっと遅れたの」
確かに、話を聞いてた、と言ってたわりには、来るタイミングが遅かった。
麻衣子は去っていく楠木を追いかけてたんだ……。
「あたし、諦めるのやめようかな、って」
「え?」
「拓也のこと。
本当はまだ、結構好きなんだよね」
舌を出して、悪戯に笑う。
だけどその瞳は、複雑な様子だった。
「今度こそ……
紫乃はあたしのこと、心から応援できる?」
試すような瞳であたしを見つめる麻衣子。
あたしはまっすぐと見返すと……
「もちろんだよ!」
と、力強く答えた。