危険なキス
「なっ……ということは、二人は教師と生徒以上の関係であると?」
「いえ。それは違います」
慌てふためく先生たちに、冷静に受け答えしていく湯浅先生。
あたしは黙って、湯浅先生の言葉を聞いていた。
「私がここの教師として働かせていただく前に、家庭教師をしていたということはご存じですよね。
彼女は、その最後の家庭教師の教え子なんです」
「なんと……」
「急遽、家庭教師を辞めざるを得なかったので、彼女の両親が何もお礼を出来なかったと申しまして……。
それで今回、そのお礼の品を彼女が持って、家に来たというわけです」
「しかし……休みの日に、女子生徒一人が男の教師の家に行くとは……」
「と言いましても、彼女の母親は仕事に出てましたし…。私と柊さんは家庭教師時代、マンツーマンで教えていたので、いまさら何か起きることはないですよ」
顔色一つ変えずに、嘘をつらつらと述べていく湯浅先生。
あたしは内心、呆気にとられていた。
「もしそんなに疑うなら、彼女の母親に確認を取ってもらっても構いません。
だけどそこまでされたら、私も信用されていなかったということになるので、退職を検討いたしますが……」
「あ、いや!わかりました。そういうことでしたら問題ありません」
退職、という言葉にピクッと反応し、先生たちは慌てて、湯浅先生の言葉を飲み込んだ。
そして結局、今回の問題は、この場で解決ということになり、あたしも湯浅先生にも処分は何も出なかった。