危険なキス
日常から逃げられるわけもなく、次の日は家庭教師の日。
いつもの時間、家のチャイムがなり、あたしの知っている身なりで湯浅先生は現れた。
お母さんは相変わらず湯浅先生を気に入っていて、快く迎え入れると、いつものようにあたしの部屋へと案内する。
部屋に二人きりになった瞬間、緊張で心臓がどうにかなりそうだった。
「じゃあ、こないだ出した宿題からいきましょうか」
「あっ…はいっ……」
湯浅先生は何も変わらず、優しい対応で授業を進めていく。
それがあまりにも普通だったので、あの時見た湯浅先生は、やっぱり別人なんじゃないかと思えてきた。
だけど緊張は解けないままで、あたしは問題集を説明する湯浅先生と指が触れ合ったとき、意識しすぎてシャーペンを落としてしまった。
その途端……
「………っく…」
しゃがみ込む頭上から、笑い声が聞こえた。