危険なキス
 
あたしは一人、職員用の駐車場で待っていた。
今日は予備校をさぼる覚悟だ。


あえてあまり見えない位置に隠れて、待ち人を待つ。

そして6時を過ぎたところで、一人の先生がやってきた。


「……先生」

「し……柊さん……」


紫乃、と呼びかけて、名字で呼びなおす。

そんな姿に、ちょっとだけ笑えた。


「どうしたんですか?こんな時間まで」
「ちょっと言いたいことがあって……」
「……なんですか?」


あくまでも、教師の仮面をかぶって受け答えをする先生。
だけどもう、そんなのは関係なかった。


「あたし、諦めるつもりありませんから」


真っ直ぐと目を見つめながら、自分の意思を伝える。

先生は何も言わなかった。


「先生の気持ちが、0じゃないことくらい、分かってるので」
「……」


「だから、0にならない限り、あたしは諦めません」

 
< 339 / 382 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop