危険なキス
「そうだ!」
部屋に着くなり、言いそびれたことを思い出して、声をあげた。
「なんだよ?」
「あの、ですね……実は昨日、川島さんから声をかけられて……」
「川島?」
「嫌がらせしてた子ですよ」
あたしの靴を隠したり、教科書に落書きをした子。
あれから、嫌がらせは一切なくなっていたけど、話しかけられたのは初めてだった。
「謝られました。
あと、これからは正々堂々と頑張る、って。
卒業したら、見てなさい、なんて言われちゃいました」
「へー」
その相手は自分のはずなのに、まるで他人事のように受け答えする先生。
振り向きもせず、コーヒーを入れてる。
「先生、興味なさすぎ」
「そりゃ、川島にはな。
でも……」
入れたばかりのコーヒーを渡しながら、軽く微笑む。
「そんなことを言わせるお前は、やっぱりすげぇって思うよ」
「……」
面と向かって褒められると、どう反応したらいいのか分からない。
あたしは照れ隠しのため、渡されたばかりのコーヒーに口づけた。
「あつっ……」
「バカッ!ったく、何やってんだよ……」
「すみ、ません……」
入れられたばかりのコーヒーは、当然のように熱かった。