危険なキス
「ごくろうさん」
職員室にいる英語の先生に課題ノートを渡すと、あたしたちはすぐに職員室を出た。
そのまま教室に戻る楠木を慌てて追いかけ、あたしはためらいながらもその背中の声をかけた。
「あ…ありがと」
「素直じゃん」
こっちは素直にお礼を言えば、楠木は少し面白そうに振り返った。
「何それ……」
「お前もさ、もうちょっと人に頼るとかすれば?」
楠木から、初めてとも思われる忠告。
あたしはバツが悪く、視線を逸らした。
「女なんだから、力仕事くらい男に頼れよ」
「相手の学級委員……先帰っちゃったし」
「べつに、ほかのやつでもいいだろ」
「……」
そんな簡単に言わないでよ。
と、心の中でつぶやいた。
あたしはあんたと違って、愛想よくほかの人に話せないんだから。