危険なキス
 
「……」
「……」


電車の中には、あたしと先生の二人が残され、しばらく無言が続く。
というか、この人はずっとあたしの隣にいるのだろうか……。


「お前が片想いしてる男って、あの男か」
「なっ……」


急に話したかと思えば、とんでもないことを口に出された。
あたしはつい、冷静さを忘れてしまう。


「ち、違いますっ……」
「ふっ。ムキになって可愛いねー」


明らか、子供扱い。
あたしはこれ以上ボロを出さないように、唇を噛んだ。


「いいなー、片想い。青春真っ盛り」
「……先生の場合、そういう問題じゃない気がします」
「どういうこと?」
「……べつに」


あたしは視線を下げた。


湯浅先生の本性を知った日のことを思い出して、思わず身震いをする。


この人が本気で人を好きになる姿とか、一度見せてほしいものだわ……。


と、ため息交じりに思った。
  
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