危険なキス
 
「……紫乃…?」


麻衣子を見つめたまま、黙ったままでいると、麻衣子がおそるおそるあたしの名前を呼んだ。

その途端、我に返る自分。


「やっぱ……紫乃って楠木くんのこと……」
「何言ってんの」


吐き出された言葉は、やっぱり素直になれない自分のものだった。


「麻衣子が楠木のこと、好きって言うから、本当にあんなやつでいいのかなー、って思ってただけだよ」

「く、楠木くんはいい人だよ!優しいし、頼りになるしっ……」


知ってるよ。

心の中でつぶやいた。


「へー。やっぱそれは、相手が麻衣子だからかな?」
「え?」


きっとそう。
確かにあたしにも優しくしてくれることはあるけど、たぶん麻衣子への優しさのほうが大きいと思う。


あたしはベンチから立ち上ると、遠くの景色を見た。
 
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