危険なキス
 
気が付くと、午後の授業は終わっていた。

いつの間にか、教卓の上には、お腹の大きい担任。
連絡事項をいくつか言って、「さよなら」という挨拶とともに、一斉にガヤガヤとする教室。

あたしはなんとなくすぐ動く気になれなくて、ただじっと椅子に座っていた。


「バイバーイ」という声があちこちから聞こえる。
あたしにも数人の子が声をかけて、教室を出て行った。

教室を見渡すと、麻衣子と楠木の姿もなく、もう帰ったんだなと分かった。


「あ……」


もうしばらく教室にいたかったけど、思えば今日は月曜日。
家庭教師の日だ。

しかも今日はお母さんの習い事の日で、家には誰もいないから、先生より早く帰っていないとマズイ。


あたしは重い腰をあげて、鞄を片手に教室を出た。
 
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