危険なキス
 
二人が乗る電車には乗らず、あたしはそのあとの電車に乗った。

それもあり、また家庭教師までギリギリな時間になってしまった。


家に帰ると、やっぱりお母さんはいなくて、あたしはすぐにお茶などの準備をした。


あんなやつでも、一応はあたしの家庭教師。

普段はお母さんがお茶と軽いお茶菓子を用意してくれるけど、月曜日だけは自分でやる。
そんなことをしている間に、家のチャイムが鳴った。


「はい」
「こんにちは」


ドアを開けると、仮面をかぶった湯浅先生。

あたしはとくに気にすることなく「どうぞ」と部屋にあげた。


「そっか。今日は母親いないんだったな」
「はい」


お母さんがいないとわかった瞬間、外す仮面。

ほんと、この姿を一度お母さんに見せてやりたいものだわ。


一度、「湯浅先生はお母さんの思ってるような人じゃないよ」と言ったけど、
お母さんは全然受け入れてくれず、結局それ以上何も言わなかった。


この人の仮面は、親の前では完璧なのだ。
 
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