君が好きだから嘘をつく
「すごいね、澤田くんっていろんなこと知っているんだね。澤田くんもてるから、想う人の気持ちとか辛さとか詳しいって・・何か意外な感じ」

「ひどいな~僕だって片思いするんだよ。好きな人に想って貰えるのは羨ましいって思うしね」

澤田くんがそんな感情を持つなんて考えられない。
いつも会社の女の子の話題にされていたり、澤田くんと話している子の顔は皆華やいでいて。みんな近付こうと一生懸命なのに。
そんな澤田くんが片思いなんて・・私と同じ感情を持ったりするのかな?

「澤田くん、今好きな人いるの?」

「今?知りたい?」

澤田くんはいつもと違っていたずらっ子みたいな顔をしている。

「うん、澤田くんも片思いしているのかな~って」

「それは秘密」

少し顔を寄せて囁くように言う。からかうように、少し微笑んで。

「え?」

「また今度おしえてあげるよ」

「うん・・じゃあ、また今度」

何だか煙に巻かれたような感じだけど、澤田くんの笑顔に『まあ、いいかな?』って思えてしまった。
そんな会話をしながら澤田くんが買ってきてくれたスープとフォカッチャを食べ終わった時、バッグの中から着信音が聞こえた。

手を伸ばし取り出して見ると、鳴り続けている着信相手は・・・健吾。

「どうして・・」

驚いて思わず澤田くんを見てしまう。
目があった澤田くんは『ん?』って少し首を傾げている。

「健吾?」

「うん・・」

そう答えてまたスマートフォンに視線を落とした時、着信音が止まった。安堵と後悔が入り混じって複雑な気持ちになる。
そんな私を察知したのか、澤田くんは私の前に立って私の手からスマートフォンを抜いた。

「柚原、いろんな気持ちがあると思うけどかけ直してみなよ」

そう言って私の左手を掴むと、手のひらにしっかりとスマートフォンをのせてきた。
伊東さんと一緒にいる健吾から電話が来るなんて、何でだろう?
頭の中に健吾と伊東さんの顔が浮かんで、手のひらに乗せられた携帯を見つめたまま動けなかった。

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