君が好きだから嘘をつく
誘い
定時に合わせて帰社し、業務報告を済ませ明日の予定に目を通し、帰り支度をする。
コートとバッグを手にして立ち上がり、周りに視線を流す。

「お先に失礼します」

健吾と澤田くんはまだ帰社していないので、既に帰社している人達に挨拶すると咲季先輩に声をかけられた。

「お疲れ様、今日は早いね」

「はい、これから約束があるので」

私が答えると何かピンと感じたらしく、そばに寄ってきた。

「何約束って、男?」

咲季先輩が声のボリュームを落としてこっそり聞いてくる。まあ、からかいもあるのだろう。
私も咲季先輩に合わせて小さな声で答える。

「男って確かに男ですけど・・英輔ですよ。同級生の」

「何?誘われたの?昔の恋再熱?」

驚きながらにやける咲季先輩に少し睨んで言い返す。

「違いますよ。今日仕事で近くに来るらしいので、飲みに行く約束しただけです」

まだニヤニヤしている咲季先輩は『そうなんだ』って頷いた。
英輔のことは話してあるから色々と咲季先輩も感じるのだろう。
私の昔の恋の相手だから。

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