君が好きだから嘘をつく
「ごめんね、お待たせ」

「おお、お疲れ早かったな」

振り向いた英輔は私と視線を合わせると笑顔を見せた。そして、私に座るようにと隣の椅子を引いてくれる。

「ありがとう」

コートを脱ぎ隣のイスにバッグとコートを置いて、英輔の引いてくれたイスに座る。
店員さんが渡してくれた温かいおしぼりで冷たい手を温めるように拭いていると、英輔がメニューを目の前に置いてくれた。

「何がいい?とりあえずビールだけ先に頼んだだけで、まだ料理選んでないからさ」

少し残っていたビールを空にして、英輔もメニューを覗き込んできた。
2人で見ながら、おすすめ野菜の焼き物と地鶏鍋と海老とイカの炙り、そしてビールを注文した。

「はい、乾杯」

「乾杯、お疲れ様」

英輔の乾杯の声に、手にしたビールのジョッキを軽く合わせて乾杯した。
こんな寒い日でも、仕事の後のビールは美味しい。
お通しの野菜の煮物をつまみながらビールがついつい進んでしまう。

「結構待たせちゃった?」

私にしたら早い帰宅時間だけど、英輔のことを待たせてしまったかもしれない。

「いや、全然待っていないよ。ビール1杯飲んでいた程度だし、俺も営業職やってるから約束の時間読めないことは分かっているから」

そう、英輔の会社が近いと再会した時に聞いて、それからメールで連絡取っていた時に英輔も営業の仕事をしていることを聞いていた。
それで外回りをしていて、今日は私の会社の近くまで来るから会おうと声をかけられたのだった。

「同じ営業の仕事してるなんてね」

「そうだな。結構大変だっただろ?営業職ってさ」

「うん、新人の研修の時からキツイと思ったけど・・・何とか頑張ってきたかな」

同じ営業の仕事をしているからこそ理解しあえる苦労話で盛り上がった。
運ばれてきた料理を食べながら、お酒をビールから焼酎へと変えて飲み続けた。
そして仕事の話から思い出したのか、英輔は健吾の話題を振ってきた。

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