君が好きだから嘘をつく
 -どうして・・・-

健吾の言葉に胸がつまった。無性に悲しくなった。

伊東さんのことが好きなくせに、これで終わりにするの?
今まで伊東さんを想って悩んだり・喜んだりしてきて、最後は伊東さんを守って頭を下げるの?
もう頭の中がグチャグチャだ。
自分でこの2人と健吾を会わせてしまったのに、目の前の健吾を見て苦しくなっている。
好きな人の目の前で、自分の気持ちを隠して頭を下げている。
そんな健吾見たくないよ・・・

気持ちが混乱している中で、伊東さんの彼の言葉が心を突いた。

「麻里のこと好きなんですか?」

強い眼差しに、今聞きたくない言葉が確信を求めた。

「いいえ」

その答えに私の中で何かが弾けた。

『いいえ』のわけがない。そう答えた健吾の気持ち、彼の残酷さを思うと無性に悔しくなって、無意識に言葉が出た。

「誤解です。いろいろと勘違いされていると思います」

「は?」

突然口を挟んだ私に伊東さんの彼は驚いた様子だ。

「伊東さんと健吾が連絡取ったり、会ったりしていたのは本当ですけど私も一緒にいましたから。伊東さんが彼氏と喧嘩しちゃった事とか相談されたり、普通の同僚として食事していました。この前お友達が健吾と伊東さんが美好で食事していたのを見たってことも、伊東さんが女子会のお店探しているからって私も健吾に誘われてました。でも仕事で間に合わないって断ったので、それも誤解だと思います。もっと早く言えばよかったけど、健吾に会って話したほうがいいと思って黙ってました。健吾がうまく説明できずすいません」

「・・・いえ」

答えた彼は複雑な顔をしている。今までの状況で簡単に信じることができないのだろう。
心の中が弾けた状態の私は、自分でももう止められなかった。
流れ出した言葉は健吾を守る為か、全てを壊す為なのか考える間もなく流れ続けた。

「ご心配されることは何もないと思います。健吾と伊東さんの間には何もないはずですから」

「何でそう言い切れるのですか?」

私の断言に彼は疑念の目を向けた。

「私が健吾と付き合っているからです。いつも彼のそばにいて、疑うべきことはないからです。あなたももっと彼女を信じてあげたらどうですか?目の前でこんな話につき合わされて不快しかないです」

勢いにまかせてとんでもない嘘をついた。でも、そう言うしかなかった。
悔しくて悲しくて嘘でまとめるしかなかった。
そしてどうしようもない気持ちで隣にいる健吾の胸元を掴み引き寄せ、健吾の唇に一瞬だけ唇を重ねて突き放した。

「ばか!しっかりしろ!」

立ち上がり健吾を睨み言葉をぶつけ、店を後にした。

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